透析を導入すれば食事の制限も緩くなると期待していたのに、逆に水分の制限が厳しくなるとがっかりしますよね。透析患者さんは、健康な方のように尿として余分な水分を体外に排泄することができないため、水分制限が必須になります。

透析治療では体内の余分な水分を取り除くのですが、除水できる量には限りがあるため、日常生活での水分の取り方には十分に気をつけなければなりません。

今回は透析患者さんの水分制限の目的から、上手に水分制限するコツまでをご紹介します。

透析患者さんの1日の飲水量の目安は約500ml

尿が出なくなった透析患者さんは、1日に飲み物として取る水分の量を500ml以下にするように指導されます。これは体に入ってくる水分と体から出ていく水分の差、つまり体内にたまる水分を透析で除水できる範囲内に抑えるための水分量です。では体に入ってくる水分と出ていく水分の内訳を詳しくご説明します。

体から出ていく水分について

一般的な成人の場合、1日に体から出ていく水分量は、不感蒸泄+便に含まれる水分+尿で計算することができます。

①不感蒸泄

不感蒸泄とは、特に感じることなく皮膚から蒸発したり、呼吸によって体から出ていく水分のことです。汗はこの中に含まれませんが、透析患者さんの場合、汗も出にくくなっているため、汗により排泄される水分はほとんどないと考えます。
汗は汗腺と呼ばれている皮膚の小器官から分泌されますが、皮膚全体に占める汗腺の面積はどの程度と思われますか?正解は切手の大きさ程度の面積です。汗ではあまり水分が逃げだせないのがお分かりいただけるかと思います。

不感蒸泄は、室温が28℃と考えた場合、体重1kgあたり約15mlです。体重60㎏の男性であれば、900mlの水分が不感蒸泄として蒸散されます。

②便に含まれる水分

便によって排泄される水分は、1日約150mlです。しかし透析患者さんは便秘しやすい方が多いため、ますます排泄される水分が少なくなります。

③尿

個人差はありますが、透析療法を続けていると尿はほとんど出なくなります。尿量の減り方は透析に至った原因疾患によっても違いますが、糖尿病腎症の方はすぐに尿が出なくなる場合が多いです。

体重が60kgの患者さんの場合で計算すると、1日に体から出ていく水分は15ml×60㎏+150ml=1050mlですから1000ml前後ということになります。

体に入ってくる水分について

1日に体に入ってくる水分量は、代謝水+食材に含まれる水分+飲み物でとる取る水分量で計算することができます。

①代謝水

私達が食事から取った栄養素は体内で化学分解されて、エネルギーとして使われたり、体内に蓄えられることになります。この化学分解の過程で生じる水を代謝水と言います。糖質は100kcalあたり約13.5ml、タンパク質は100kcalあたり約10.1ml、脂質は100kcalあたり約11.5mlの代謝水を生成します。これらを合計すると1日の食事から生じる代謝水は約200mlになります。

②食材に含まれる水分

飲み物として取らなくても、食材自体にも水分が含まれています。1日3回の食事で摂っている水分量は約1000mlです。

体に入ってくる水分量は1日あたり
200ml+1000ml+飲み物から摂る水分
ということになります。

水分制限を成功させるコツは?

尿が出なくなった透析患者さんの場合、体に入ってくる水分と出ていく水分の差はすべて体内にたまることになります。そのため体に入ってくる水分を制限する必要があるのですが、代謝水は減らすことができません。食事と飲み物の中で、工夫して水分を減らす必要があります。

①水分の多い野菜を減らす

レタスは約96%、きゅうりは約95%と、ほとんどが水分です。これでは、生野菜のサラダなどは、水を飲んでいるようなものになってしまいますね。野菜は生で食べずに、ゆでて水分をしっかり絞ってから食べるようにしましょう。水分と同時にカリウムも減らすことができます。

②水分の多い料理は食べ方を工夫する

味噌汁や麺類の汁は残す他、カレーやシチューなどもルーを残して具を中心に食べるようにしてください。鍋物の野菜も、水分をたっぷりと吸いこんでいるので気をつけましょう。

③お粥、雑炊に注意

食欲のない時や歯が弱くなった高齢の患者さんでも食べやすいお粥は、お米が水分を吸いこんでいるため、知らず知らず水分を多く取ってしまうことになる料理の1つです。鍋のしめの雑炊も水分が多いので、食べ過ぎに注意してください。

④口当たりのいいデザートは水分が多い

ゼリーやアイスクリーム、プリンなども70~90%が水分です。果物は水分だけでなくカリウムも多いので食べ過ぎないようにしましょう。

⑤飲水量はマイカップで管理する

お茶などの飲み物は量を決めて飲むようにします。1日に飲んだ量がはっきりわかるように、マイカップ、マイコップを決めておきましょう。コップの容量に合わせて1日に何杯までと管理すれば簡単です。

⑥1日2回体重を量る

透析と透析の間の体重の増加は、ほぼ体内にたまった余分な水分です。ですから朝と夜の1日2回体重を量ることで、体内の水分増加量を把握することができます。体重増加許容範囲の目安は、透析と透析の間が中1日の場合3%以内、中2日以上の場合は6%未満です。ですから1日あたりの増加量は体重の約1.5%以内になるように自己管理してください。例えば体重が60kgの患者さんの場合は、1日あたり900gまでが目安になります。

⑦塩分摂取に気を付ける

水分の取り過ぎばかりに気を取られてしまって塩分について忘れてしまうと片手落ちになります。私たちは一般に体内の水分が足りなくなるとのどが渇きます。実は体は水分量というよりは血液の塩分濃度を感じて水不足を感じています。ですから塩分を取り過ぎてしまうと猛烈にのどの渇きを感じてしまいます。これを「水を飲まずに我慢しろ!」というのは過酷な要求となってしまいます。以前お話ししたと思いますが、「塩分制限は七五三」です。1日の塩分制限量は腎不全の状況に応じて、7g,5g,3g 以内に収めるようにしましょう。
ミステリー小説では「犯罪の陰に女あり」(決して性差別ではありませんので誤解なきよう)といわれていますが、「水分過剰摂取の陰には塩分あり」といったところです。

過剰な水分は、透析患者さんの命に関わります

ではなぜ透析患者さんはこのように厳しい水分制限を行う必要があるのでしょうか。

それは透析患者さんが発症しやすい心血管疾患には、この過剰な水分が深く関わっているためです。透析と透析の間に体内に余分な水分がたまると、その分だけ血液の量が増えます。そのため心臓が拍出して全身に送り出さなければいけない血液の総量も増え、心臓の仕事量が大きく増えることになります。心臓のオーバーワークが続くと、心臓の筋肉である心筋が伸びきってしまい、心臓の機能が低下します。その結果、心不全を起こしやすくなってしまうというわけなのです。

さらに心筋が伸びきってしまうと心臓の拍出力が落ちるため、透析で除水すると血圧がすぐに下がり透析を中断する必要に迫られる場合もあります。また過剰な水分で負担がかかるのは心臓だけではありません。肺の血管も膨らんでしまい、水分が血管の外側にしみ出し、二酸化炭素と酸素の交換を行っている肺胞の中にも水分がしみ出してしまいます。

この状態を肺水腫と言い、肺水腫を発症すると酸素を血液中に送ることができなくなり、患者さんは非常に息苦しい状態になり、進行すると呼吸不全に至ります。過剰な水分は心不全や肺水腫などの危険な病気につながるので、主治医の指示通り日常生活での水分の取り過ぎに気をつけることは、透析患者さんの命を守るために非常に重要なことなのです。

尿が出なくなった透析患者さんにとって、水分制限は非常に重要です。日常生活の中で食事の摂り方、食材の選び方に気をつけ、飲水量を管理し、しっかりと対応していきましょう。

まとめ

  • 透析患者さんは水分制限をする必要があり、1日の飲水量の目安は約500ml以内です。
  • 体に入ってくる水分には、食事で取った栄養素が化学分解される時に生成される代謝水もあり、その量は1日あたり約200mlです。
  • 水分制限のためには、水分の多い野菜を減らす、水分の多い料理は具を中心に食べるなどの注意が必要です。お粥も水分が多いので食べ過ぎに気をつけましょう。
  • 過剰な水分は心不全や肺水腫など命に関わる病気の原因になります。