腎臓病の患者さんは安静にしていた方がいいのか、体を動かす方がいいのか迷いますよね。
以前は進行した慢性腎臓病の患者さんの場合、安静にしていることが治療の1つと考えられていました。
しかし近年では適切な運動が腎機能低下の防止に役立つ腎臓リハビリテーションという考え方が普及しています。
腎臓リハビリテーションは透析患者さんのQOLを高めるための運動療法としても認められています。
今回は腎臓リハビリテーションについてご紹介します。
ピーピー(甚五郎のナースコールの音)

はい、どうしましたか?

どうもしないけど、暇なんだよ。透析の4時間はいつも暇を持て余して困っているんだよ

そんなこと、言われても……。ほら皆さん、テレビを見たり本を読んだりして過ごしていらっしゃるじゃないですか。甚五郎さんもそろそろ何かそういう時間の過ごし方を見つけてくださいよ

うーん。テレビは飽きたし、本を読むのも好きじゃないんだよ。君、何か面白い話でもしなさい!

面白い話と言われても。そうだ、今日はこれから腎臓リハビリをやるので、甚五郎さんも参加しませんか?

腎臓リハビリ? よくわからないけど、面白そうだな。それを頼むよ

じゃあ、しっかり聞いてくださいね
最初は、体を動かす機会を増やすことから
運動療法は、薬物療法、食事療法と並んで慢性腎臓病の治療法の3本柱の1つです。
日本腎臓学会の生活指導ガイドラインでも、さまざまな腎臓の病気の進行度合いによってどの程度の運動療法が可能かを定めるために、生活指導区分が作成されています。
参考までにご紹介します。
・普通生活
通勤・通学 制限なし
勤務内容 普通勤務。制限なし
運動 水泳・登山・スキー・エアロビクス
・軽度制限
通勤・通学 2時間程度
勤務内容 肉体労働は制限、それ以外は普通勤務。残業・出張可
運動 軽いジョギング・卓球・テニスなど
・中等度制限
通勤・通学 1時間程度
勤務内容 一般事務。深夜・時間外勤務・出張は避ける
運動 速足散歩・自転車
・高度制限
通勤・通学 30分程度、できれば車
勤務内容 軽作業、勤務時間制限。残業・出張・夜勤不可
運動 散歩・ラジオ体操程度
例えば糖尿病性腎症の第1期~第3期Aの人の場合は「普通生活」に該当し、水泳や登山など強度の高い運動でも可能となっています。
水泳や登山はする機会がなかなかない運動ですが、つまり健康な人と同じようにどんどん運動をしたほうがいいということです。
しかしどの程度の運動が適度になるかは、1人1人の運動能力によっても違いますので、主治医に相談して無理なく取り組める運動から始めましょう。
もちろんスポーツでなくても、体を使うことなら何でも運動になります。
運動療法といっても特別なプログラムが決められているわけではないので、毎日の生活の中で体を積極的に動かす機会を増やしていきましょう。
いつもは乗り物を利用する場所へ歩いていく、バスや電車の1駅分歩いてみるなど、簡単にできることから始めるのもおすすめです。
また生活習慣による肥満やメタボリックシンドロームから腎臓病になった患者さんの場合は、運動により減量することも大切です。
血圧のコントロールが悪く高血圧が続いたり、むくみが悪化している場合などは、主治医から運動より他に優先されることもありますが、それ以外の場合はできるだけ体を動かすようにしてください。
適度な運動が腎機能低下を防止
以前は運動は腎臓に負担をかけると言われていて、腎臓病の患者さんについては運動よりも安静がすすめられていました。
しかし現在では適度な運動が腎機能の低下を防止する効果が注目され、運動療法が広く実施されています。
確かに慢性腎臓病の患者さんが運動するとたんぱく尿が出ることがあるのですが、それは一時的なことで、運動習慣があると腎臓のろ過機能も改善されることが注目され、腎臓リハビリテーションという考え方が一般的になりました。
また運動を続けていくことで、心肺機能が高まり、慢性腎臓病の患者さんが発症しやすい心血管疾患のリスクが低下することも注目されています。
透析中の運動も効果的
日本腎臓リハビリテーション学会は、透析中に行う運動も推奨しています。
透析中に運動するとリンなどの老廃物除去効果が高まり、透析時間を1時間増やすのと同程度の効果が出ているという報告もあります。
運動内容は日本腎臓リハビリテーション学会が作成した手引きに従い、クリニックのスタッフが患者さんの状態を見ながら指導します。
例えば透析前にラジオ体操などを準備体操として行い、透析開始後1時間程経ったら音楽に合わせて足を上げたり下げたりする運動を20~30分行います。
運動を始めてから、足つりや便秘が起きにくくなったというデータもあります。
筋力向上にも効果があり。透析中の運動を始めたことで車椅子を使う必要がなくなったという患者さんの例もあります。
運動習慣でQOL(クオリティオブライフ)も向上
慢性腎臓病が進行した患者さんや透析患者さんの場合も、運動習慣により筋肉の減少が改善され体力が回復したという報告もあります。
特に高齢の患者さんの場合は、動かないでいると筋力や筋肉量が減少しやすいので、運動療法は体力低下を防ぎ、QOLを向上させるためにも重要です。
同じ運動も長く続けるうちに以前より楽にこなせるようになった、疲れにくくなったと感じることができれば、運動能力が上がったことを実感でき、慢性腎臓病の治療にも前向きに取り組めます。
安静のイメージが強い腎臓病ですが、適度な運動は腎機能低下の防止に役立ちます。
また透析中に行う腎臓リハビリテーションにも様々な効果が報告されていて、今後ますます広がっていくことが予想されます。

どうでしたか、甚五郎さん。初めての腎臓リハビリは

うーん、透析中の暇つぶしになったが、ちょっと疲れたぞ

それはいいことですよ! 筋肉は使えば増えるけれど、使わないと減ってしまうんです。これからは透析の時はできるだけ腎臓リハビリをやるようにしましょう。
それに体調も安定されているようですから、普段の生活の中でもできるだけ体を動かすようにしてくださいね

体を動かすのは疲れるからなあ……ブツブツ

そんな文句ばっかり言ってないで、運動療法の大切さや今日やった腎臓リハビリのことについて下にまとめておいたので、読んでおいてくださいね。
そして今度ナースコールで呼んだ時は、どんな運動をしているか話してくださいね

もう呼ばないよ!
まとめ
- 運動療法は、慢性腎臓病の主な治療法の1つです。
- 日本腎臓学会の生活指導ガイドラインでも、慢性腎臓病のステージに合わせて適切な運動が定められています。
- 運動能力は個人差があるので、少しずつ体を動かすことを増やして、無理のない範囲から始めましょう。
- 透析中に行う運動には、様々な効果があることが日本腎臓リハビリテーション学会により報告されています。
- 透析中の運動で、老廃物の除去効果がアップし、足つりが改善されたという報告もあります。
- 適度な運動は筋力の衰えを防ぎ、慢性腎臓病の患者さんや透析患者さんがQOLを向上させるためにも大切です。