特に自覚症状はないのに、「貧血が進んでいますね」と主治医から言われるとビックリしますよね。
慢性腎臓病の患者さんや透析患者さんによく見られる合併症の1つに腎性貧血があります。
腎臓は血液をろ過して尿を作る働きをする他に、骨髄で血液を作らせる作用を持つエリスロポエチンというホルモンを作り、分泌しています。
しかし慢性腎臓病の患者さんは腎機能が低下しているため、エリスロポエチンの分泌が不足してしまい腎性貧血が起こります。
今回は慢性腎臓病の患者さんに起きやすい貧血についてご紹介します。

腎性貧血とは

貧血というと鉄欠乏性貧血が一般的ですが、これは赤血球を構成しているヘモグロビンが不足していることが原因です。
ですから鉄欠乏性貧血は、ヘモグロビンの材料である鉄を食事や鉄剤で摂取することで改善できます。
しかし慢性腎臓病の患者さんに見られる腎性貧血は、鉄とは無関係で、腎機能の低下により起きています。
ですから貧血を治そうと食事で鉄分を取るだけではあまり効果はありません。
慢性腎臓病の進行により腎性貧血も起きやすくなり、CKDステージ3からは貧血の患者さんが特に増加します。
透析療法を受けている患者さんになると、ほぼ8割の方がこの腎性貧血を発症しています。
そのためステージ3では半年ごと、ステージ4では3カ月ごと、ステージ5では毎月血液検査で貧血の状態を確認します。
患者さんの症状によってはステージが進行していなくても貧血の検査を行ったり、検査の間隔を短くすることもあります。

腎性貧血が起きる原因について

では腎臓の病気があると、なぜ貧血が起きるのでしょうか。
貧血とは、赤血球の数が減ったり、赤血球の中身のヘモグロビンという赤い色の色素が減った状態です。
赤血球は、骨の中心部にある骨髄というところで作られます。
骨髄の中で、赤血球は、おおもとの細胞である幹細胞から赤芽球へと成長します。
この時、幹細胞が赤芽球になるためには、腎臓の尿細管が分泌するエリスロポエチンというホルモンが必要です。
そして骨髄の中で成長した赤血球は、網状赤血球となって血管の中に移動します。
網状赤血球はまだ未熟な赤血球ですが、血管の中でエリスロポエチンによって成熟し、全身の細胞に酸素を送り届けられるようになります。
このようにエリスロポエチンは、赤血球が生まれる時にも成長する過程でも重要な働きをしているホルモンのため、別名造血ホルモンとも呼ばれています。
また血管の中に存在している網状赤血球には核がないので、自分で分裂したり増殖したりすることはできません。
エリスロポエチンが助けてくれないとどんどん減ってしまいます。
つまり慢性腎臓病になって腎臓の機能が低下すると、このエリスロポエチンが不足して十分に赤血球を作れなくなり、貧血になるというわけなのです。

腎性貧血の症状

貧血は一般的に徐々に進行するため、体がその状態に少しずつ慣れてしまうことで、患者さん本人は気づきにくいという特徴があります。
血液検査をして初めて、かなり進行した貧血が見つかるという患者さんが多くいます。
この点は腎性貧血も同じで、皮膚や爪、唇などが青白くなったり、疲れやすさやだるさなどの自覚症状が出る頃には、貧血がかなり進んでいる場合もがあります。
また貧血の状態が続くと全身の細胞に酸素が十分に届けらないため、全身の臓器に悪影響が及び、腎機能の低下も進みやすくなります。
そのためますますエリスロポエチンが不足し貧血も進むという悪循環となり、末期腎不全への進行も早まります。
そして忘れてはならないのが、貧血の心臓への影響です。
貧血になると、細胞や組織に運べる酸素量が減少します。
その場合、心臓は酸素の供給量を増やすために多くの血液を運ぼうとしてより激しく収縮しなければならず、大きな負担がかかり続けることになってしまいます。
貧血は心臓を弱らせ、心不全など危険な疾患が発症するリスクを高くするので、貧血ぐらいと軽視しないで早めに適切な対応をすることが重要です。

腎性貧血の治療

腎性貧血の治療は、貧血の原因になっているエリスロポエチンホルモンを注射する方法が一般的です。
血液検査で貧血かどうかを判断するために用いられるのは、ヘモグロビン濃度という数値です。ヘモグロビン濃度が複数回の検査で約10g/dl以下になったらエリスロポエチンの注射を開始します。
特に透析患者さんは腎性貧血が進んでいる場合が多いので、薬剤にもよりますが、透析毎や1週間~4週間に1回、症状と血液検査の結果に合わせてエリスロポエチンの注射を行います。
このエリスロポエチン製剤がなかった時代は、透析治療の度に輸血をするような方法も取られていました。
現在は優秀なエリスロポエチン製剤があるため、腎性貧血をコントロールして、慢性腎臓病の患者さんの体調を良好に保てるようになっています。

腎性貧血以外の貧血の原因について

慢性腎臓病の患者さんは、腎性貧血以外の原因で貧血になっている方や、腎性貧血と他の原因の両方を持っている方も多いです。

①鉄欠乏性貧血

腎性貧血と鉄欠乏性貧血を合併している患者さんも少なくありません。
鉄欠乏性貧血は貧血の中で一番多い貧血で、鉄分が不足していることで赤血球の中で酸素を運ぶ仕事をしているヘモグロビンが十分に活動できていないことが原因です。
腎臓が健康な方は食事で鉄分を多く取ることで鉄欠乏性貧血を防ぐことができるのですが、慢性腎臓病の患者さんの場合は食事から鉄分を摂取しようとすると、食事療法のタンパク質制限が守れなくなってしまいます。
それでは腎機能がさらに悪化して、貧血もますます進むという逆効果になります。
慢性腎臓病の患者さんの鉄欠乏性貧血は食事ではなく鉄剤の服用や注射で治療します。
また貧血を改善しようとサプリメントを利用する患者さんもいるのですが、サプリメントには腎臓に負担をかける成分が含まれているケースがあるので、自己判断で飲むのは厳禁です。
必ず主治医や管理栄養士に相談するようにしてください。

②消化管出血

貧血が続いている患者さんや治療しても改善しない患者さんの場合、胃や腸からの出血が原因になっていることもあります。
消化管出血が起きているかどうかは、便潜血の検査で確認できます。
消化管出血が発見された場合は、原因を特定し、その治療を行う必要があります。

慢性腎臓病の患者さんに起きやすい腎性貧血は、貧血の原因となっている造血ホルモンであるエリスロポエチンの不足を改善することで治療できます。
貧血の発見や治療が遅れると、腎機能の低下や心不全など命に関わる病気を引き起こす原因になるので、定期的に血液検査を受けて、主治医の指示に従いましょう。

まとめ

  • 慢性腎臓病の患者さんや透析療法を受けている患者さんには、貧血の症状がよく見られます。
  • 貧血の主な原因は、エリスロポエチンの不足による腎性貧血です。
  • 腎性貧血は、エリスロポエチン製剤の注射で治療します。
  • 貧血の治療が遅れると、末期腎不全への進行が早まり、心不全などのリスクも高まります。
  • 鉄欠乏性貧血や消化管出血なども同時に起きているケースがあります。