食事や水分摂取の制限は多いし、治療のために拘束される時間も長い透析患者さんは、ストレスがたまりますよね。そんな患者さん達のメンタルケアを支えるのが、サイコネフロロジーです。

医師や医療スタッフなどの医療従事者が透析患者さん達の心の問題を学び、患者さんのQOLを向上させていこうという取り組みです。

今回はこのサイコネフロロジーについてご紹介しますので、患者さんご自身はもちろん、ご家族や身近に透析患者さんがいらっしゃる方も参考になさってください。

サイコネフロロジーとは

サイコネフロロジーとは、サイコロジー(Psychology:心理学)とネフロロジー(Nephrology:腎臓病学)から生まれた造語で、近年透析医療の現場で注目されている腎臓病精神学です。その始まりは、自身も透析患者であった精神科医の春木繁一氏の発案により1990年に設立された日本サイコネフロロジー研究会でした。

当時の透析療法は、合併症の発症が現在よりはるかに多く、患者さんの負担も大きいものでした。自らも尿毒症や合併症に苦しんだ経験の中で春木氏は、患者さんの苦しみは身体面だけはないことに着目しました。そして多くの患者さんが悩みやストレスを抱えているにもかかわらず、医療従事者が十分に応えきれていないこと、そして心のケアは主治医、精神科医、看護師などの医療スタッフが別々に対応するのではなく、同じ立場になって協力して解決していかなければならないことを提唱しました。

それから四半世紀以上が経ち、医療技術や各種薬剤の進歩により、患者さんの身体的負担は大きく改善されました。しかし、患者さんが日々感じているストレスなど精神的な問題は今も大きく、事実多くの透析患者さんがうつ状態を経験しています。血液が浄化され体の症状が緩和されても、心が健やかな状態でなければ、よい治療とは言えません。透析患者さんが元気で長生きするためには心のケアが不可欠であることから、今後ますます重要な役目を果たすことになるのがサイコネフロロジーなのです。

透析患者さんが抱えるストレスについて

他の病気の患者さんも、治療や生活の上でのストレスはあります。しかし透析療法が必要な末期腎不全は、病気の中でも最も精神的負担が大きいものの1つです。

①そろそろ透析導入の必要があると言われた時

腎臓は一度悪くなってしまうと機能を回復させることが難しい臓器です。慢性腎臓病と診断されてから一生懸命生活改善や食事療法に取り組んできたにもかかわらず進行してしまった方、発見が遅れたため腎臓が悪いとわかった時には腎機能が著しく低下していた方など、透析治療に至る経過は患者さん1人1人違います。

しかし末期腎不全と診断され、透析導入の必要があると告げられた時に感じるショックは、皆さん同じです。これからの人生を守るための新しい対応として、患者さん自身が透析療法を受け入れられるようになるまで患者さんのお話を聞くことも、サイコネフロロジーの1つです。

②透析導入直後

透析治療に通うことに慣れるまでは、心身ともにお疲れになる患者さんも少なくありません。また不均衡症候群という透析を始めたばかりの頃に起きやすい合併症を発症することもあります。そのため透析をすれば体が楽になると思っていたのにと、がっかりされる患者さんもいらっしゃいます。これらの悩みは透析療法に体が慣れてくれば少しずつ改善されていくことが多いので、ご家族がゆっくりとお話を聞いて支えてあげてください。

③生活の変化

通院しながら行う血液透析治療では、週3回、1回あたりに4~5時間が一般的です。そのため仕事を続けられなくなったり、配置換えが必要になったというお悩みもよく聞きます。

透析導入によって仕事を辞めることは経済面だけでなく、社会とのつながりを失った喪失感を感じることもあります。また主婦の方は以前のように家事ができなくなったことを気にされる方も多いです。そんな時、支えになるのは、やはり家族の存在です。患者さんがふさぎ込んでいる、元気がなく笑顔が見られないなどといった様子が続く時は、普段通っている透析クリニックに相談してください。患者さんの状態をよく知っているクリニックのスタッフと連携して対応を考えましょう。

抑うつ状態が続く時は、まず主治医に相談を

透析患者さんでは、うつを経験されている方も少なくありません。では、透析患者さんがうつ病になった場合はどこで治療を受けることになるのでしょうか。

現状では透析患者さんの精神状態を熟知している精神科医は少ないこと、精神科医から処方される薬が透析患者さんの体に負担となることもあることなどから、初期の治療はまず透析クリニックの主治医が行うことが多いです。多くの透析患者さんを受け入れている実績のあるクリニックなら、透析患者さんの心理状態にも詳しいので、適切な対応を受けられます。効果が見られない場合やうつの症状が進む場合は、精神科への紹介が必要になるケースもあります。

こういった場合には全てを一人で抱え込まないようにすることが大切です。残念ながら腎臓病という病を得てしまった責任は患者さん個人・人格に責任があるわけではありません。状況によっては院内のソーシャルワーカー(社会福祉士)さんが相談にのってくれます。ザックバランに主治医と話してみることをお勧めします。

高齢の患者さんは家族のサポートが重要

高齢化が進むにつれ、慢性腎臓病も高齢の患者さんが増加し、高齢になってから透析を始めるという方も増えています。そういった患者さんの場合、腎臓病以外の他の病気を持っているケースも多く、何種類もの薬を飲んでいる方も珍しくありません。薬の管理ができるかどうかは個人差も大きいのですが、飲み忘れ、飲み間違いなどがないように、ご家族のサポートがあれば安心です。

また腎機能が低下していると、体内に入った薬が排泄されにくくなるため、薬の成分の血中濃度が高くなり過ぎてしまうこともあります。服用している薬は腎臓病の主治医にすべて伝え、複数の医療機関にかかる時はお薬手帳を忘れずに持って行って処方されている薬についての情報を伝えるようにしましょう。

体調の変化があっても高齢者は気がつきにくいので、ご家族が気をつけていてあげてください。また年をとるにつれ、物忘れが増えたり、認知症になる患者さんも増えてきます。認知症の患者さんが透析療法を受ける場合は、自ら針を抜いてしまうなどのトラブルが起きる場合もあります。患者さんの認知機能の状態については、事前にクリニックに詳しく伝えておきましょう。

透析患者さんが健やかで生き生きとした毎日をおくるためには、メンタルケアと家族のサポートが必要です。まず患者さんの話を聞くこと、そして患者さんの置かれている状況と年齢に応じた対応が大切です。

まとめ

  • サイコネフロロジーは、透析患者さん達の心の問題を学ぶことでストレスを和らげ、患者さんのQOLを向上させていこうという取り組みです。
  • 透析患者さんは、食事や水分の制限、治療のための時間的拘束などで多くのストレスを感じています。
  • 透析患者さんには、家族の支えが大切です。まず話を聞くことから始めましょう。
  • 透析患者さんに抑うつ状態が見られる時は、まず主治医に相談してください。
  • 高齢の透析患者さんの場合は、薬の飲み忘れや飲み間違いなどにもご家族が気をつけてあげてください。
  • 認知症の症状がある場合は、透析クリニックに伝えておきましょう。