生活習慣に関係なく発症する腎臓の病気があり、進行すると透析が必要になるかもしれないと聞くと、心配になりますよね。
腎臓病の中には遺伝性の病気もあり、その中でも最も患者さんが多いのは多発性嚢胞腎という病気です。
今回は、この多発性嚢胞腎についてご紹介します。
多発性嚢胞腎とはどのような病気なのか、原因は何か、遺伝はどのように関わるのか、どんな症状が出るのか、そしてどんな治療法があるのかなど、ご家族にこの病気の方がいらっしゃる方はご参考になさってください。

多発性嚢胞腎とは

多発性嚢胞腎は、国の指定難病にも認定されている遺伝性の病気です。
日本には約31,000人の患者さんがいるという報告があります。
嚢胞とは液体の入った袋のことで、両方の腎臓にこの嚢胞が複数できます。
年齢とともに嚢胞が大きくなり、数も増え、腎臓の組織を圧迫することで、腎機能が低下します。
進行すると末期腎不全となり、透析療法が必要になります。
嚢胞は、肝臓や脾臓、膵臓など他の臓器に発生するケースもあります。

多発性嚢胞腎の原因

多発性嚢腎臓は遺伝性の病気で、PKD1またはPKD2という尿細管を作る遺伝子の変異が原因です。
PKD1遺伝子異常の患者さんは、PKD2遺伝子異常の患者さんよりも発症年齢が低く、その後の経過も悪いというデータがありますが、症状の進み方については個人差が大きい病気です。
腎機能の低下が早く進行する患者さんもいれば、この病気を持っていても一生特に症状が出ないというケースもあります。
ではなぜ遺伝子に異常があると、腎臓に嚢胞ができるのでしょうか。
通常は、尿細管細胞の中に繊毛があり、尿の流れを感知して尿細管の太さを調整しています。
しかしPKD遺伝子に異常がある多発性嚢胞腎の患者さんの場合は、繊毛がないため尿細管の太さを均一にすることができません。
尿細管の太さを調節できなくなると、尿細管が太くなり嚢胞となるというわけなのです。
多発性嚢胞腎は、遺伝情報の伝わり方で2種類に分類されます。

①常染色体優性多発性嚢胞腎

人間の体細胞には、23体、46本の染色体があります。
大きさの順に1番から23番まで番号がついているのですが、1番~22番までの22対、44本を常染色体と呼びます。
残りの23番目の1対、2本は性染色体で男女の性別を決定します。
これらの染色体は、両親から1本ずつ受け継ぎます。
病気の遺伝子は染色体の中に存在しているのですが、両親の遺伝子のどちらか片方に異常があるだけで発症するケースを優性遺伝といいます。
常染色体優性多発性嚢胞腎は、この優性遺伝で遺伝する病気のため、両親のどちらかにPKD遺伝子の異常があった場合、50%の確率で子供に遺伝し発症します。
発症の確率は男女とも同じで、子供が何人かいるケースでも、すべての子供が同じ50%の確率で発症します。
ほとんどの患者さんが30~40歳代まで無症状で、40歳前後に症状が出ることが多いので、成人型とも呼ばれます。
その後加齢とともに嚢胞が増え、70歳までに約50%の患者さんが末期腎不全となり、人工透析が必要となります。

②常染色体劣性多発性嚢胞腎

両親から受け継いだ常染色体にある遺伝子の両方に異常があると発症するのが、常染色体劣性多発性嚢胞腎です。
1人目の子供がこの病気だった場合、次の子供も発症する確率は25%です。
10,000人~40,000人に1人の比較的まれな病気ですが、子供に多いため、幼児型とも呼ばれています。
出生前に兆候が発見されるケースもありますが、新生児期に発症することがほとんどです。
出生後は新生児集中治療室での治療が必要になります。
短期間に嚢胞ができること、また、肺の異常や肝臓の病気を合併する場合が多い一方で、有効な治療法がないため、新生児期に亡くなることも多い病気です。

常染色体優性多発性嚢胞腎の症状

40歳頃までは無症状の場合が多く、腎臓の嚢胞に気づかず治療を受けていない方が少なくありません。
嚢胞の数が増えてくると嚢胞の中で出血するため、最初の症状は血尿だったという患者さんも多いです。
受診し超音波検査で腎臓の嚢胞が発見されれば、多発性嚢胞腎と診断されます。
さらに嚢胞が大きくなると、腰痛や腹痛、腹部膨張感などの症状も出てきます。
膀胱炎になると病原菌が腎臓に上がってきて嚢胞に感染し、熱が出ることもあります。
合併症が多いのも特徴で、高血圧や心臓の弁膜異常、尿路結石、腎結石、大腸の壁にへこみができる憩室症などを発症することもあります。
そして多発性嚢胞腎の患者さんが最も注意しなければいけない合併症が、脳動脈瘤です。
患者さんのうちの約10%という高い確率で発生し、多発性嚢胞腎に合併した脳動脈瘤は破裂しやすいという特徴があります。
多発性嚢胞腎と診断されたら、腎機能の検査だけでなく、脳のMRI検査を必ず受けてください。
異常が見られなくても、その後も年に1回は脳のMRI検査を受け、脳動脈瘤ができていないか確認しましょう。

多発性嚢胞腎の治療

遺伝性の病気なので、根本的な治療法はありません。
薬物療法と食事療法で、腎機能の低下を抑えます。
進行して末期腎不全に至った場合は、透析療法が必要になります。

①トルバプタン

2014年に認可された日本で初めての多発性嚢胞腎の治療薬です。
腎機能が保たれた多発性嚢胞腎については、嚢胞増大を抑制する効果があります。
しかしトルバプタンを多発性嚢腎臓の治療に使う場合は様々な条件があり、すべての患者さんが使える治療薬ではありません。
またトルバプタンで治療を行っている医療機関は限られていますので、現在かかっている病院での対応については主治医に相談してください。

②高血圧の治療

多発性嚢胞腎の患者さんの約60%には高血圧が見られ、症状が出る前から高血圧になっているケースも少なくありません。
腎機能の低下を遅らせ、腎臓病の患者さんが発症しやすい心血管疾患を防ぐために血圧の管理は非常に重要です。
ARBやACE阻害薬など一般的な降圧剤で治療を行います。

③食事療法

多発性嚢胞腎の患者さんの食事療法は、慢性腎臓病のステージに合わせて行います。
病気の原因ではなく、腎臓の機能がどの程度残っているかでステージを分けて治療を行うのが慢性腎臓病の概念で、タンパク尿や糸球体ろ過率が診断基準となります。
ステージに合わせて塩分やタンパク質、カリウムなどの制限を行い、腎機能の低下を防ぎます。

④腎動脈塞栓術

嚢胞の影響で腎臓が大きくなり歩きにくくなったり、胃腸が圧迫されて食欲不振などの症状がある場合適用される手術法です。
腎動脈の血流を遮断し、嚢胞で大きくなった腎臓を縮小させます。
両側腎動脈塞栓術は、太ももの動脈からカテーテルを挿入して、腎動脈に塞栓を詰めるという手術になります。

多発性嚢胞腎は40歳前後に発症することが多い、遺伝性の腎臓病です。
年齢とともに嚢胞が増えて進行するので、薬物療法と食事療法で腎機能の低下を遅らせることが大切です。

まとめ

  • 遺伝性の腎臓病で、最も患者さんが多いのは多発性嚢胞腎です。
  • 尿細管の太さを調整するPKD遺伝子の異常が原因で、両方の腎臓に複数の嚢胞ができ、腎機能が低下します。
  • 40歳頃に発症することが多い常染色体優性多発性嚢胞腎と、新生児期に発症することが多い常染色体劣性多発性嚢胞腎があります。
  • 常染色体優性多発性嚢胞腎では、70歳頃までに約50%の患者さんが末期腎不全に至り、透析療法が必要になります。