慢性腎臓病だと心臓が悪くなりやすいと聞くと、いつか自分も心臓の病気で命を失うのではないかと不安になりますよね。
透析患者さんが命を落とす原因は心血管疾患が多いのですが、腎機能が低下しているだけでも心血管疾患のリスクが高くなることがわかっています。
また一般の心血管疾患の患者さんと、慢性腎臓病から合併した患者さんでは、発症の原因にも違いがあります。
今回は慢性腎臓病の方が発症しやすい虚血性心疾患についてご紹介します。
いざという時に迅速に適切な対応ができるように、患者も患者さんのご家族も、参考になさってください。

虚血性心疾患とは?

なんらかの原因で血流が途絶え、組織が酸素不足に陥った状態を「虚血」と言います。
この「虚血」が元で起きる心臓の病気が「虚血性心疾患」で、狭心症や心筋梗塞があります。
狭心症も心筋梗塞も、ある日突然激しい胸の痛みと息苦しさが起きます。
狭心症の発作は安静にしていれば通常は5分程度、長くても10~15分で治まりますが、心筋梗塞の場合は病院で早急に治療しない限り治まらず、命に関わります。
すべての患者さんが狭心症から心筋梗塞に進行するというわけではなく、初めての発作がいきなり心筋梗塞というケースもあります。
狭心症も心筋梗塞も心臓の問題であって一見腎臓とは関係ないようですが、実は腎機能の低下と心血管疾患には深い関係があるのです。

虚血性心疾患の原因について

心臓は心筋という強い筋肉のかたまりでできている臓器で、1分間に60~80回も収縮と拡張を繰り返しながら全身に血液を送り出しています。
この動きを休むことなく続けるためには大量の血液が必要で、その血液は冠動脈と言う名前の血管を通って供給されています。
狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は、この冠動脈が狭くなったり詰まってしまうことから起きます。
ではなぜ冠動脈にそのような異常が起きるのでしょうか。
悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールが血液の中に増えすぎると、血管の内皮細胞が傷つき、そこにLDLコレステロールが入り込んで溜まり酸化します。
それを排除しようと、免疫細胞が酸化したLDLコレステロールを取り込んだ後、役目を終えた免疫細胞が血管の壁に溜まります。
これをプラークと呼びます。
メタボリックシンドロームの人や、高血圧、高血糖、脂質異常症の人は、血液内にLDLコレステロールが多い状態が続いているので、プラークがどんどん溜まり、血液の通り道が狭くなってしまいます。
これが動脈硬化で、冠動脈の血流を悪化させ、狭心症や心筋梗塞の主な原因になります。
慢性腎臓病の患者さんは動脈硬化が進んでいるため、冠動脈にもプラークが溜まりやすく狭心症や心筋梗塞を発症するリスクも高くなっています。
また 高リン血症があると 血管の石灰化がおこりやすく冠動脈の動脈硬化を更に促進します。
糖尿病も血管の変化をもたらし同じように冠動脈の硬化を促進します。
それに加えて、他にも慢性腎臓病の患者さんが特に虚血性心疾患を起こしやすい原因があることがわかってきました。

①左室肥大

高血圧、腎性貧血、高リン血症などの腎機能低下にともなう症状があると、全身に血液を送りだす心臓の左室はより大きな力が必要になるために筋肉量が増え、左室肥大になります。
左室が肥大すると心臓が必要な酸素量も増えるため、冠動脈からより多くの血液を供給しなければなりません。そのため、冠動脈にわずかな狭窄があっても虚血性心疾患が発症しやすくなります。

②大動脈の硬化

たくさんのエネルギーを必要としている心臓の筋肉にエネルギーのもととなる酸素と栄養を供給しているのが冠動脈です。
その冠動脈に血液を送っているのが大動脈なのですが、慢性腎臓病の患者さんは大動脈の硬化が起きやすく、冠動脈の血流が低下しやすいという特徴があります。
冠動脈の血流が十分でないと、心臓の仕事量が増えた時に供給する血液の量が間に合わなくなり、虚血性心疾患が起こります。

虚血性心疾患の症状

①狭心症

狭心症は発作が起こるタイミングによって2つに分類されています。
走ったり重いものを持ったりした時に発作が出るタイプは、「労作性狭心症」です。
強い胸の痛みと息苦しさが出ますが、体を動かさなければ数分以内に自然に発作は治まります。
体を動かす時、心臓は通常よりも拍動(心拍)の回数を増やすため、心臓の細胞にはたくさんの酸素が必要になります。
しかし冠動脈が動脈硬化で狭くなっていると、血液が流れにくいため心臓に十分な酸素を供給できず、発作が起きることになります。
また安静にしている時に発作が出るタイプは「安静時狭心症」です。
発作は就寝中に多く、深夜や早朝に見られます。
発作の持続時間は、労作性のタイプよりも長い傾向があります。
「安静時狭心症」は、なんらかの原因で冠動脈がけいれんを起こし、血流が悪くなったことで発作が起きます。

②心筋梗塞

激烈な胸の痛みと息苦しさが起こり、苦しさのあまり倒れてしまうことや意識を失うこともあります。
血栓により冠動脈が完全にふさがれ、詰まったその先への血流が途絶えている状態が心筋梗塞です。
血液が流れてこないと酸素不足のため心筋は壊死し始めます。
ですから安静にしていれば治まる狭心症とは違い、心筋梗塞を起こした患者さんは一刻も早く病院へ運び治療を開始しないと命に関わります。
発症から約3時間以内に治療を始められれば、心臓のダメージを最小限に抑えることができます。

虚血性心疾患の予防と治療について

①慢性腎臓病の患者さんが虚血性心疾患を防ぐために

虚血性心疾患発症の二大要因は、高血圧と高血糖です。
これは慢性腎臓病発症の二大要因と同じです。
ですから慢性腎臓病の患者さんが虚血性心疾患を防ぐためには、血圧や血糖値のコントロールにしっかりと取り組み慢性腎臓病の進行を抑えることが基本になります。
毎日の生活の中での自己管理も重要で、肥満、運動不足、睡眠不足、ストレスなどを改善できるようにライフスタイルを見直しましょう。

②虚血性心疾患の治療

狭心症の治療法には、薬物治療、カテーテル治療、バイパス手術があり、冠動脈の狭窄の程度や、プラークの状態、発作の起こり方、頻度などを考えて、治療法を選びます。
薬物療法では、発作を予防する薬と発作を鎮める薬がありますが、薬で狭心症そのものが治るわけではありません。
冠動脈の内腔をひろげるカテーテル治療は、胸を開かずにできるため患者さんの肉体的な負担も少ないですが、カテーテル治療をしても再発を繰り返す時やカテーテル治療が難しい時は、冠動脈の詰まった部分を迂回して新たな血管を作り血流を回復させるバイパス手術が必要になります。
心筋梗塞の場合は、病院に着き次第検査をし、診断が確定したらすぐに心臓の血流を再開させるための治療を行います。
心筋梗塞の治療は、命を救い、心臓のダメージを最小限にとどめるため、時間との勝負になります。

慢性腎臓病の合併症の中でも特に危険なのが虚血性心疾患です。
胸の痛みや息苦しさなど気になる症状がある時は、しばらく休めば治まるからと放置せず、必ず医師に相談しましょう。

まとめ

  • 狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患は、慢性腎臓病の患者さんが発症しやすい危険な病気です。
  • 主な原因は動脈硬化による冠動脈の異常ですが、慢性腎臓病の患者さんの場合は左室肥大や大動脈の硬化も原因になります。
  • 狭心症の治療法には、薬物治療、カテーテル治療、バイパス手術があります。
  • 心筋梗塞は一刻も早い治療が必要で、手当てが遅れると命に関わります。

執筆: (医療法人)