初めて透析療法を受ける時は、患者さん本人はもちろん、ご家族も心配ですよね。
透析療法で体の中に溜まった老廃物を除去することで体調がよくなることを期待すると同時に、合併症に対する不安を抱えておられる患者さんもたくさんいらっしゃいます。
透析療法は末期腎不全の患者さんの命を守るために必要不可欠の治療法ですが、様々な合併症を引き起こすこともあります。透析導入初期によく見られる不均衡症候群もそのひとつです。
今回は不均衡症候群についてご紹介します。
不均衡症候群の主な症状とその原因、不均衡症候群が起きた場合の対処法など、これから透析を始められる方やご家族はどうぞご参考になさってください。

不均衡症候群とは

不均衡症候群とは、血液透析導入時によく見られる様々な症状の総称です。
透析により細胞の内外で尿毒素物質などの濃度に差が生まれて浸透圧のバランスが崩れること、つまり不均衡になることから起きる合併症のため、不均衡症候群と名付けられました。
透析療法の合併症には、透析を始めたばかりの頃に起きやすい短期的合併症と透析療法を長く続けていくほど増えてくる長期的合併症がありますが、短期的合併症がこの不均衡症候群にあたります。

不均衡症候群の原因

初めて透析を行う前の患者さんは、腎機能が低下したことで体内に尿毒素がたくさん溜まった状態です。
血液透析は、一般には患者さんの腕から血液を外に出して、ダイアライザーの中を通す間に尿毒素や余分な水分、老廃物を取り除き、きれいになった血液を再び体内に戻す治療法ですから、初めて行う患者さんの場合、尿毒素を一気に除去することになります。
尿毒素は全身の体液に溜まっていますが、血液透析を始めるとまず血液中の尿毒素が透析液へと急速に除去されます。
そして血液中の尿毒素の濃度が低下すると、次は細胞内の尿毒素が血液中へと移動します。
これは濃度の違う2種類の液体が膜をはさんで接していると、濃度の高いものが濃度の低いほうへと移動する浸透圧の作用により起きる現象です。
血液透析中には全身の細胞から血中へと速やかに尿毒素の移動が行われるのですが、1ヶ所だけ例外の場所があります。
それが、脳内です。
脳内の毛細血管は、全身の他の血管とは違い、グリア細胞という細胞でしっかりと守られています。
グリア細胞は、通常血液中の毒素が脳に侵入しないようにバリア機能を果たしているのですが、血液透析中は脳の髄液から血管への尿毒素の移動も妨げてしまいます。
グリア細胞に妨げられて髄液中の尿毒素の除去が遅れると、今度は浸透圧の作用で逆に血管から髄液へ水分が移動し始めるという現象が起きてきます。
その結果脳の組織に過剰な水分が溜まる状態、つまり脳浮腫になってしまいます。
一過性の脳浮腫のため時間が経てば自然に回復するのですが、脳浮腫は頭痛などの症状を引き起こし、これが不均衡症候群の症状になります。

不均衡症候群の症状

血液透析中や透析直後、透析終了後約12時間以内に、頭痛や吐き気、全身倦怠感などが起きます。
血圧低下、下肢の痙攣や、意識障害などを起こす時もあります。
また筋肉の痙攣、いわゆるこむら返りと呼ばれる、足がつる症状が起きることもあります。
これは除水の積算量が大きくなる透析の後半に特に起こりやすく、末梢血管が収縮し血流が低下して筋肉の異常な収縮を誘発することが原因になります。
不均衡症候群は透析導入当初に起きやすい合併症ですが、体が透析療法に慣れるに従って起きにくくなります。
不均衡症候群が起きにくくなる頃には、透析治療に通うペースもできて、透析導入前よりも体調がよくなってきたことを実感する患者さんが多いので、ご安心ください。

不均衡症候群を防ぐためには

では不均衡症候群を防ぎ、また起きても症状をできるだけ軽くするためにはどうしたらいいのでしょうか。
透析療法を行うクリニック側でも対策を講じていますが、患者さんにも気をつけるべきことがあります。

①クリニック側の対策

急激に尿毒素を取り除くことが不均衡症候群の原因となるため、透析療法の第1回目や、透析の開始当初は、できるだけゆっくりと透析をするようにします。
特に体内の余分な水分を取り除く除水は、時間をかけてゆっくりと行うように気をつけます。
また尿毒素を取り除いた後も細胞の内外の浸透圧を抑える目的で、グリセオールやマンニトールなどの浸透圧物質を使用するケースもあります。

②患者さん側の注意点

患者さんの体内に尿毒素や老廃物、水分など除去が必要な成分が多いほど、不均衡症候群は起きやすくなります。
塩分、カリウム、リンなどの食事制限は、しっかり守りましょう。
透析で取り除くことができるから大丈夫と、導入前よりも気が緩んで食べ過ぎてしまうことがないようにしてください。
透析前よりタンパク質制限は緩くなり多少自由になりますが、摂り過ぎは合併症の悪化につながりますから注意が必要です。
また透析患者さんの水分制限は、心臓の負担を防ぎ心血管疾患を防ぐためにも重要です。
汁物などはできるだけ避け、飲み物からの水分摂取は1日500~600mlを目安にしましょう。
血液透析は週3回行うことが一般的なので、透析と透析の間隔は中1日の時と中2日の時ができます。
中2日の時は、特に老廃物や水分が溜まりやすくなるので、この間の食事や過ごし方には特に気をつける必要があります。

不均衡症候群の治療

不均衡症候群の症状は、時間が経てば治まるので、通常はそのまま様子を見るのが一般的です。
患者さんの要望と状態により、頭痛があれば頭痛薬、吐き気には吐き気止めなどの内服で対応することもあります。
筋肉の痙攣とともに血圧低下が起きた場合は、生理食塩水の急速注入や筋肉の興奮を抑制するカルチコールという薬の静脈注射を行うこともあります。
また温めてマッサージを行うことで筋肉の異常収縮を改善させるケースもあります。
近年普及し始めた透析中に下肢の運動をする腎臓リハビリテーションにも、足のつりを防ぐ効果があることが報告されています。
透析中に不均衡症候群の症状が出た場合は、医療スタッフに伝えて対応してもらいましょう。
万が一帰宅してから重い症状が出たような場合は、すぐにクリニックに連絡して主治医の指示に従ってください。

透析療法の第1回目や透析を始めたばかりの頃に起きやすい不均衡症候群は、透析に体が慣れてくれば起こりにくくなる合併症なので、心配はいりません。
多くの患者さんが経験する短期的合併症で、対処法や治療法も決まっているので、症状が出た場合は主治医や医療スタッフに相談しましょう。

まとめ

  • 不均衡症候群は、透析導入時に起こりやすい短期的合併症です。体が透析に慣れてくると起こりにくくなります。
  • 原因は、体内の尿毒素の急激な除去による一過性の脳浮腫であり、時間が経てば回復します。
  • 主な症状は、頭痛、全身倦怠感、吐き気、筋肉の痙攣などです。
  • 不均衡症候群を防ぎ、症状を軽くするためには、ゆっくりと時間をかけて透析を行うようにします。
  • 体内の老廃物や水分が多いと不均衡症候群も起こりやすくなるので、食事制限や水分制限を守ることも大切です。