どんな病気の患者さんでも、自分の受けている治療について正しい知識を持っておきたいですよね。特に透析治療は腎臓が悪くなった方が一生続けていくことになる治療ですから、しっかりと理解しておきましょう。

今では末期腎不全の患者さんの標準的な治療となった透析ですが、最初から現在のようなかたちであったわけではありません。いくつもの改良を重ね、安全性の高い治療法として確立されてきた歴史があります。

今回はそんな透析治療の歴史についてご紹介します。

透析治療の始まり

透析治療がまだなかった時代、末期腎不全は治療法がない不治の病でした。
今では、血液透析に通いながら仕事をしたり、社会復帰したりしている人も少なくありません。

このように透析が安全な治療として確立されるまでには、幾多の変遷がありました。

19世紀中頃 透析の原理の発見

スコットランドの化学者トーマス・グレアムが、特定の物質を透過させる半透膜を発見しました。
トーマス・グレアムは、この技術が医学に役立つのではないかと考えました。

そして半透膜は後に透析膜となり、透析器に使用されることになります。
透析のことを英語では『Dialysis』(ダイアリシス)と言いますが、この言葉もトーマス・グレアムが作りました。

由来は、ギリシャ語の『dia』=『こちらから向こうまで通る』と『lysis』=『分ける』です。

1913年 動物実験で初めての透析

アメリカのアベルが、16本の管を組み合わせた世界で初めての透析器を開発しました。
そして動物に投与した物質を、この透析器を使って拡散の原理で除去するという実験に成功しました。

1945年 人工腎臓による救命に成功

動物実験の成功後、急性腎不全の患者への透析治療も試みられるようになりました。
1943年から1944年にかけて、オランダのヴィレム・コルフは、急性腎不全の患者14人に透析治療を実施し、1945年に世界で初めて人工腎臓を使った救命に成功しました。

透析技術が確立されるまで

ヴィレム・コルフによる世界初の人工腎臓を使った救命成功後、ほどなくして、透析技術を著しく進歩させる出来事が起こります。
それは、1950年に始まった朝鮮戦争です。

当時米軍の前線では、クラッシュ症候群による死亡者が急増していました。
クラッシュ症候群とは、がれきなどの重い物で腰や腕、足などの筋肉が長時間挟まれた後、その圧迫から解放された時に起きる全身障害です。

原因は長時間の圧迫によって体内に蓄積された毒素が、急激に全身に広がることで、急性腎不全を起こすことでも知られています。
このクラッシュ症候群による急性腎不全を治療するために、アメリカは腎臓の機能を代替できる血液透析機器を開発させました。

そして米軍兵士の死亡率は大きく低下し、血液透析は世界で注目されるようになり、1955年頃からは戦場以外でも急性腎不全の治療には血液透析が広く利用されるようになりました。

日本での透析治療のスタート

日本で最初の透析治療は1954年、渋沢喜守雄が試作した血液透析器によるものです。
徐々に臨床例は増えましたが、1960年頃までの透析治療は急性腎不全の患者さんに対してだけでした。

その後外シャント、内シャントの発明や、長時間の治療を行える透析機器が開発され、慢性腎不全の治療に使用されるようになります。

・外シャント

患者さんの静脈と動脈を人工的な素材でつなぎ、血液透析を行う際の血液の出入り口としていたもので、1960年に開発されました。
透析治療が始まった頃はこの外シャントが使用されていましたが、感染症や炎症が起きやすく、閉塞しやすいという欠点がありました。

・内シャント

動脈と静脈をつないで新たな血液路を作ったものです。現在では内シャントを作るのが一般的です。

患者さんの負担を軽減する社会制度の実施

1960年代からは日本でも慢性腎不全の患者さんに対する透析治療が始まりましたが、すべての患者さんに適用されるには、高額な医療費が障害となっていました。

当時は医療保険の対象外で、1ヵ月の医療費は約12万円でした。サラリーマンの平均月収が約10万円の時代でしたから、透析治療はごく一部の裕福な人だけが受けられる治療法だったのです。

1972年には、透析療法が身体障害者福祉法の対象となり、自己負担額が大幅に軽減されました。
続いて1984年には、健康保険法が改正され、新たな制度が創設されました。特定疾病として要件を満たす疾病は、自己負担限度額を毎月1万円とすることで、自己負担分の軽減を図るという制度です。(70歳未満の上位所得者は毎月2万円)

透析治療が必要な慢性腎不全は、この特定疾病に含まれるため、患者さん達は費用の心配をあまりすることなく治療を続けられるようになりました。

また各自治体の制度を利用すれば、自己負担分をさらに少なくするなど、さまざまな福祉サービスを受けることもできます。

透析医療の発展

慢性腎不全への治療が始まってからわずか半世紀余りで、日本の透析治療は大きく進歩してきました。

①合併症対策

透析治療が始まった当時の患者さんは、重い合併症を発症しているケースが多く見られました。
現在では高性能ダイアライザーの登場など透析技術の進歩に加え、優れた治療薬により患者さんのQOLも向上しています。

例えば腎性貧血は以前は輸血しか治療法がなく、輸血が原因でB型肝炎やC型肝炎に感染する患者さんも少なくありませんでした。健康な腎臓が分泌している造血ホルモンエリスロポエチンの働きを補う製剤が登場してからは輸血の必要もなくなりました。

②社会復帰を支える透析方法

通常の血液透析は、週に3回通院して1回あたり4~5時間の治療を行うため、仕事との両立に悩まれる患者さんが多くいらっしゃいます。
そこで夜の睡眠中に透析を行うオーバーナイト透析や、まだ実施例は少ないものの自宅で行う在宅血液透析などの方法も登場しています。

透析以外の腎代替療法

このようにめざましい進歩をとげてきた透析療法ですが、健康な腎臓の働きにまさるものはありません。
慢性腎不全の透析以外の唯一の治療法には、健康な腎臓をわけてもらう腎移植があります。

拒絶反応が起きないように免疫抑制剤の服用を続ける他は、食事や活動の制限もないので、患者さんにとっては理想的な治療法とも言えるでしょう。

しかし腎移植は、腎臓の提供者がいて初めて行える治療法です。
日本では、提供者の不足の問題もあり、実施例はまだ少ないのが現状です。

現在の透析療法は、登場以来改良と進歩を積み重ねてきた、安全性の高い治療法です。
すべての患者さんが費用面では心配することなく治療を続けられる社会制度も整備されています。

まとめ

  • 透析の原理は、19世紀中頃、スコットランドの化学者によって発見されました。
  • 透析技術は朝鮮戦争下で進歩し、世界的に注目されるようになりました。
  • 日本では1960年以降に透析治療が始まりました。
  • 最初は急性腎不全の治療にだけ適用されていた透析療法ですが、技術の向上により慢性腎不全の治療にも使われるようになりました。
  • 高額な医療費がかかる透析治療を安心して続けられるように、社会制度が整っています。
  • 透析機器や薬物療法の進歩により、合併症を防ぐことができるようになりました。