「透析治療を始めてからふさぎこんでいる様子を見ると、とても心配だが、どのように接したらいいかわからない。何と声をかけるべきかわからない」
これは、透析患者さんのご家族の多くが抱えていらっしゃる悩みですね。透析導入で時間的制約が多くなると、仕事を失ったり、環境が変わったり、患者さんは多くの喪失を経験することになります。そんな患者さんの心に寄り添って、悲しみから立ち直り病気を受けいれていく過程をサポートしようというのが、グリーフケアです。
今回は透析患者さんのグリーフケアについてご紹介しますので、身近に透析患者さんがいらっしゃる方はどうぞご参考になさってください。

空ちゃん空ちゃん

お父さん、お父さんが好きな番組が始まったよ。一緒にテレビ観ようよ

豆雄豆雄

うん……別に観たくないから、いいよ

空ちゃん空ちゃん

どうしたの?お父さん、最近部屋に閉じこもってばかりだよ

豆雄豆雄

透析を始めてから仕事も変わらなきゃならなくなったし、何より自分の腎臓の機能を失ってしまったと思うと、悲しくて、もう何をやる気にもならなくなったんだよ

空ちゃん空ちゃん

そんな……。お父さんの元気がない様子を見ていると私もますます心配になるわよ

豆雄豆雄

迷惑ばかりかけてすまんな

空ちゃん空ちゃん

そんなことないって
(お父さんに何かしてあげられることないかなあ……そうだ、清水さんに相談してこよう)

グリーフケアとは

グリーフとは英語で『悲嘆』を表すGriefという言葉です。一般的にグリーフケアと言うと、家族や親しい人を失い深い悲しみの中にいる方に寄り添って、喪失感と悲嘆から立ち直らせる世話をすることです。グルーフケアの始まりはアメリカで、日本では2000年以降に自らもご主人をがんで亡くし深い悲しみを体験した宮林幸江自治医科大学看護学部教授の活動で広まりました。

透析患者さんにおけるグリーフケアとは、透析治療を始めたことで失ったもの、変わったことによる悲しみを一緒に理解してあげることから始まります。腎臓の機能を失った患者さんは、これからずっと透析治療を続けていかなければなりません。そのためには、自分の病気を受け入れ悲しみから立ち直ることを助けるグリーフケアはとても重要です。

グリーフケアを行う人達

①患者さんのご家族

患者さんの悲しみを最も理解できるのは、やはり一番身近なご家族です。患者さんの中には、自分の透析導入が家族の負担となり迷惑をかけていると悩んでいる方もいらっしゃいます。ご家族は患者さんの悲しみを受け止め、理解し、患者さんがご家族にとってかけがえのない存在であることが伝わるように心がけてください。

②患者さんの友人や知人

患者さんが悲しみを乗り越え自分の病気を受け入れられるようになるには、ご家族だけでなく友人の存在も重要です。患者さんによっては、ご家族に言えないことも友人になら打ち明けられるという方もいらっしゃいます。

③医療関係者

多くの透析患者さんを受け入れているクリニックのスタッフや医師は、透析患者さんの体調だけでなく心の状態についても重要であると考え、グリーフケアを行っています。

④専門家

グリーフケア・カウンセラーやグリーフケア・アドバイザーなどの資格を持っている専門家もいます。
グリーフケア・カウンセラーの資格は、グリーフ・カウンセリング・センター(http://gcctokyo.com/)、グリーフケア・アドバイザーの資格は、日本グリーフケア協会(http://www.grief-care.org/about.html)で取得することができます。

グリーフケアが必要な症状

患者さんに次のような症状が見られたら、グリーフケアを受ける必要があります。そのままにしておくと、うつ病や不安障害などにつながることもあります。

①精神的症状

激しい悲しみ、怒り、抑うつ感、不安感、孤独感、無気力さなど

②身体的症状

眠れない、食欲がない、疲れやすいなど

③行動

混乱しやすい、動揺しやすい、集中力の低下など

悲しみや喪失感から立ち直るためのプロセス

患者さんが立ち直り、病気を受け入れ、透析治療を受けながら安定した精神状態で日常生活を送っていけるようになるためには、時間がかかることを理解してあげてください。
患者さんは主に次のようなプロセスをたどることになります。
①から④へと変わっていき患者さんが立ち直るためには、患者さんの悲しみを理解し、寄り添い、一緒に歩んでいくグリーフケアが必要です。

①無感覚になる

腎臓の機能を失ったことや1日おきに透析治療を受けなければ命に関わるような体になったことに大きなショックを受けたため、反応が鈍くいつもぼんやりとした状態になります。

②感情が不安定になる

透析治療が必要になったことを受け入れようとしますが、受け入れることができず、感情の起伏が激しくなります。

③無気力になる

仕事や自由な時間など、透析を始めたことで失ったもののことを思い、自分の人生に意味を見出すことができず、無気力に過ごすようになります。

④活動的になる

病気や透析治療が必要なことを受け入れて、活動的に日常生活を送ることができるようになります。

透析患者さんは、透析導入前後は深い悲しみと喪失感の中にいます。患者さんがふさぎこむなどの症状が見られたら、まずご家族やまわりの方が、悲しみを理解し、寄り添ってあげてください。それでもなかなか患者さんの様子が変わらず、抑うつ状態が続くようなら、グリーフケアを学んでいるクリニックのスタッフに相談しましょう。

清水清水

グリーフケア、ちょっと難しいけれど、わかったかな

空ちゃん空ちゃん

ありがとうございます。
私の父はまだ病気が受け入れられなくて、無気力になっているんですね

清水清水

そうかもしれないわ。でもそらちゃん、焦らずにゆっくりお父さんによりそってあげてね。患者さんが立ち直るまでには、個人差もあるけれど、かなり時間がかかることもあるのよ

空ちゃん空ちゃん

はい。透析を受けるようになっても、仕事が変わっても、私にとって大事なお父さんであることには何も変わりがないので

清水清水

そうそう、その気持ちでお父さんのそばにいてあげれば、お父さん、きっと病気を受け入れて元気になるからね。精神的なこともすべて一人で抱え込まないで、医療スタッフをはじめ複数の人が問題解決を考えてくれて、それなりの味方が周囲にいることを認識してもらうことも大切よ。生真面目にすべて一人で解決しようとしないで加勢を頼むという発想を忘れないでね

空ちゃん空ちゃん

はい、そうします

清水清水

お父さんにはそらちゃんがついているから安心ね。
今日説明したグリーフケアについて、下にまとめておいたから、読んでおいてね。
お父さんと接する時にきっと役に立つと思うから

空ちゃん空ちゃん

ありがとうございます。またこれからも父のこと相談にのってくださいね

まとめ

  • 透析患者さんは、深い悲しみと喪失感を感じていることがあります。患者さんに寄り添って、悲しみから立ち直っていけるようサポートするのがグリーフケアです。
  • グリーフケアは、大切な人と死別した人を支えるためにアメリカで生まれ、2000年以降日本でも広がってきた活動です。
  • グリーフケアを行うのは、患者さんのご家族、友人、医療関係者などです。グリーフケアを学んだ専門家もいます。
  • 抑うつ感、無気力感などの精神的症状や、不眠、食欲低下、集中力の低下などが患者さんに見られた場合はグリーフケアが必要です。
  • 患者さんは最初、現実を受け入れられず、その後感情が不安定になり、無気力になるというプロセスをたどります。患者さんの悲しみを理解するグリーフケアを行うことで、その後立ち直ることができるようになります。