透析を始めたら薬がいらなくなると期待していたのに、逆に飲む種類が増えてしまうとガッカリしてしまうかもしれません。しかし、透析治療は、機能を失った末期腎不全の患者さんの腎臓の働きを人工的に行う方法なので、健康な腎臓とすべて同じ働きができるわけではありません。

また透析療法を続けていると発症しやすくなる合併症もあります。それらに対応するために必要なのが薬物治療です。今回は透析患者さんの薬物療法についてご紹介します。

腎臓の機能を補うための薬物療法

透析治療だけでは代行できない腎臓の機能は薬物療法で補います。

①リン吸着剤

健康な人の場合、食事から体内に入ったリンは尿中と便中に排泄されます。しかし尿の出なくなった透析患者さんの場合は、体内にリンが溜まりやすくなり、高リン血症を起こしやすくなります。体内に溜まったリンは、骨をもろくしたり、石灰化による動脈硬化の原因になります。

そのため透析ではリンを取り除き、食事療法ではリンを制限するのですが、それでも体内にリンが過剰に溜まるようなら、リン吸着剤を服用します。

炭酸カルシウム

食事の直前、または食後に服用することで、食事に含まれるリンを吸着し便中に排泄します。高リン血症の患者さんに処方されることが多い一般的な薬ですが、カルシウムイオンが血液中に移行するため高カルシウム血症を引き起こすことがあります。

セベラマー塩酸塩

成分中にカルシウムを含まないため血液中のカルシウム濃度を上昇させずに、リンを便中に排泄させることができる薬です。しかし便秘、腹痛、消化不良などの副作用が起きることがあるので、最初は少量から始め、少しずつ増量します。

②カリウム吸着剤

カリウムもリンと並んで透析患者さんの体内に溜まりやすくなる物質です。カリウムは野菜や果物などに多く含まれ、血液中のカリウムが過剰になる高カリウム血症は、吐き気や嘔吐、舌や顔面のしびれ、筋脱力感などの症状が出ます。悪化すると不整脈の原因となり、命に関わることもあります。

血液透析で取り除いてもその効果は不十分なため、血液中のカリウム濃度を低めに維持するためには、食事療法でカリウムを制限し、必要に応じてカリウム吸着剤を服用します。

③活性型ビタミンD3製剤

腎臓は、ホルモンを活性化したり作ったりする臓器としても重要ですが、この働きは透析では代行できません。例えば骨の強化には活性型ビタミンDが必要なのですが、透析患者さんの場合にビタミンDを活性化することができないため、骨がもろくなってしまいます。

そこで外から活性型ビタミンDを補給する必要があり、血液検査のデータや骨の状態に合わせて、活性型ビタミンD3の錠剤が処方されます。
また透析終了時に回路から注射する活性型ビタミンD3の注射剤もあります。

④エリスロポエチン製剤

健康な人の腎臓からは、血液を作るように促すエリスロポエチンというホルモンが分泌されています。このエリスロポエチンには骨髄に作用して赤血球の生成を促すのですが、このホルモンの働きも血液透析では代行することができません。そのために起きるのが透析患者さんの腎性貧血です。腎性貧血はエリスロポエチンの注射で治療します。

⑤カルシウム吸着剤

リン吸着剤服用などが原因で血液中のカルシウムが過剰になる高カルシウム血症を発症することがあります。高カルシウム血症は、集中力低下、錯乱、筋力低下、筋肉痛などの原因となり、悪化すると命に関わることもあるQT短縮という心電図の異常を引き起こすおそれもあります。血液中のカルシウム濃度も定期的にチェックし、過剰になっている場合はカルシウム吸着剤が処方されます。

かゆみや便秘などを改善するための薬物療法

透析患者さんに起きやすい様々な症状も薬物療法で対応します。

①かゆみの治療薬

透析患者さんは、リンやカルシウムのバランスが崩れたことによる異所性石灰化や乾燥などが原因で皮膚にかゆみを感じることがあります。
かゆみの改善には、抗アレルギー薬の服用、外用ステロイド薬、中枢性経口掻痒改善薬などを使用します。

②便秘薬

透析患者さんは、水分制限やカリウム制限による野菜不足、リン吸着剤、カリウム吸着剤の副作用などにより便秘に悩む方が少なくありません。

また特に糖尿病性腎症が原因で透析に至った患者さんの場合は、糖尿病の合併症による自律神経障害のため、ますます便秘しやすくなっています。そのため、様々なタイプがある便秘薬の中から透析患者さんに合うものを主治医により処方してもらうことになります。

また市販の便秘薬には、マグネシウムを含んでいるものなど透析患者さんには合わない製品も多いので、自己判断で市販薬を飲むことは絶対に避けてください。透析患者さんに処方されることが多い主な便秘薬のタイプをご紹介します。

刺激性下剤

大腸に刺激を与えて働きを高め、便の出をよくする薬です。効果が出るのは8~10時間後なので、夜就寝前に服用して翌朝の排便を促します。アローゼン顆粒、プルゼニド、ヨーデルS糖衣錠、アジャストAコーワ錠などがよく処方されます。

漢方薬

効果の出方には個人差があります。
また漢方薬は水やお湯に溶かして1日3回飲むものが多いので、その時の水分量も1日の水分摂取量に忘れず加えてください。漢方薬は本来が「煎じ薬」ですので、50cc程度の熱湯によく溶かして、湯気でお薬の香りを感じながらゆっくり服用するのがコツと思います。一部の漢方製剤では揮発成分によるアロマ効果もあるといわれています。「医食同源」の具体的実践方法のひとつです。

③貧血改善薬

透析患者さんは、腎性貧血だけでなく、鉄分の不足により赤血球の働きが衰えている鉄欠乏性貧血もあわせ持っているケースも多く見られます。
鉄欠乏性貧血の場合は、鉄剤の服用や注射で対応します。

高血圧の薬物療法

透析患者さんは、慢性腎臓病の治療中から高血圧の治療をしている方がほとんどです。高血圧は命に関わる心血管系疾患につながるため、透析導入後も薬物治療を続ける必要があります。

降圧剤の中には成分が透析で除去されるものと除去されないものがあるので、薬の選択は患者さんの症状に合わせて主治医が慎重に判断します。

ACE阻害薬(Angiotensin Converting Enzyme)

効率よく血圧を下げる降圧剤です。透析で除去されるので、透析中に血圧が下がる患者さんに処方されます。空咳や高カリウム血症などの副作用が起きることがあります。

ARB(Angiotensin II Receptor Blockers)

透析で除去されないので、血液透析で除水が進むにつれて血圧が上昇する患者さんに投与されることが多いです。副作用の高カリウム血症に注意が必要です。

その他の薬物療法

その他患者さんの症状に合わせて、主治医が適切な薬を処方します。

①利尿剤

わずかでも尿が出れば、その分だけ水分制限が緩和され、透析では除去できない物質を取り除くことができます。そのため患者さんの状態によっては利尿薬を処方されることもあります。用いられるのは、尿細管のU字部分に作用して水分と塩分の再吸収を抑えるループ利尿薬です。

②抗凝固薬・抗血小板薬

透析患者さんは血液の粘り気が増して、血栓ができやすくなることがあります。血栓を防ぐためには、抗凝固薬や抗血小板薬を用います。服用中は血が止まりにくくなることがあるので、注意が必要です。

③脂質異常症治療薬

血液中のコレステロール量をコントロールして、動脈硬化の進行を抑えます。

透析患者さんは、定期的な検査で様子を見ながら薬を調整して薬物治療を行います。飲み忘れや飲み間違いがないようしっかり管理して正しく服用しましょう。

まとめ

  • 透析治療は腎臓の働きをすべて代行できるわけではないので、薬物療法も併用する必要があります。
  • 透析患者さんはリンやカリウムが溜まりやすいので、リン吸着剤やカリウム吸着剤が処方されます。
  • 骨がもろくなるのを防ぐために活性型ビタミンD3製剤、腎性貧血の改善にはエリスロポエチン製剤を用います。
  • かゆみや便秘などの改善にも薬物療法を行います。
  • 降圧剤や脂質異常症治療薬は、心血管系疾患を防ぐために服用します。