週に3回通院して透析治療を受けていると、透析室にはいろんな医療スタッフが働いていることに気がつきますよね。
透析治療を行うチーム医療の一員、臨床工学技士は、医療機器のスペシャリストです。

透析装置の準備や設定、操作を行い、患者さんの血液浄化がベストの状態で行われるように働いている縁の下の力持ちとも言えます。
今回は透析室で働く臨床工学技士の役割についてご紹介します。

臨床工学技士とは

臨床工学技士とは、医療機器の管理、操作を行う専門職のことを言います。臨床工学技士になるには、4年制大学や3年制短期大学、専門学校など定められた施設で医学と工学を学び、国家試験に合格する必要があります。

病院内での役割は医師や看護師とチームを組んで、各種医療機器の操作などを担当することです。また操作だけでなく、必要な時にいつでも医療機器が使用できるように、点検して管理しておくのも臨床工学技士の仕事になります。

病室、集中治療室、手術室などで臨床工学技士はさまざまな医療機器の操作を行いますが、透析室では、透析液の製造、透析装置の操作など重要な役割を果たしています。

最近では臨床工学技士の中でも、血液浄化療法を行う上での専門的な能力を認められた血液浄化専門臨床工学技士と呼ばれるスペシャリストが、透析クリニックに増えてきました。

血液浄化専門臨床工学技士は、透析室全体の管理に加えて、他のスタッフへの指導なども行います。

臨床工学技士の1日

では透析室で働く臨床工学技士の1日の仕事はどのようなものなのでしょうか。
クリニックによって多少違いはありますが、一般的な例をご紹介します。

①ミーティングで1日の予定と患者さんの状態を確認

ミーティングを行い、今日透析治療に来院予定の患者さんについて確認します。透析クリニックでは通常、午前中から透析を始める患者さんと午後からの患者さんの2グループがいるので、その両方についての情報を共有します。 透析中に血圧の大きな変化や、足のつり、体調不良などが起きたことのある患者さんについての情報も全員で確認します。

②透析液の準備

血液透析に必要な透析液の準備を行います。透析液は製薬会社から届いた原液を薄めて使用するのですが、水道水をそのまま使うわけにはいきません。まず水道水を軟水装置に入れ、カルシウムやマグネシウムなどを取り除きます。

次に軟水装置で処理された水を逆浸透装置(以下RO装置)という装置に通して、不純物をまったくと言っていいほど含まない純水な水を作ります。そして純水と透析液の原液を混ぜ合わせて、透析液が完成します。透析液の濃度は非常に重要なので、必ず医師に報告します。
 

③透析装置の準備

透析回路を組み立て、ダイアライザーをチェックして、透析装置の準備をします。
また透析治療中の患者さんの状態を正確に把握するための個人用監視装置も準備します。

④透析治療の開始

透析治療の開始は、臨床工学技士が2人1組になって行います。
まず患者さんの腕のシャント血管に針を刺します。

この針刺しは、透析看護師が行うケースもあります。針は患者さんの体から血液を取り出す脱血用と、透析装置で浄化した血液を戻す返血用の2本を刺します。

⑤シャントのトラブルが疑われる患者さんにはシャントエコー検査を行う

針がなかなか刺せない場合や、これまではスムーズに刺すことができていたのに急に刺しにくくなった場合は、シャント内の血管に狭窄や閉塞、感染などのトラブルが起きている可能性も考えられます。その場合はシャント部分を超音波で調べるシャントエコー検査を行います。

また針を刺すのが困難な場合は、超音波で血管を見ながら針を刺すこともあります。

⑥患者さんの状態を確認しトラブルに対応

血液透析が始まったら、患者さんの様子に変化がないか常に気を配ります。
特に血液透析を導入したばかりの患者さんの場合は、頭痛、倦怠感、吐き気、足の痙攣などの症状が現れる不均衡症候群という合併症が起きることがあるので、より注意します。

血圧低下や血圧上昇が起きる患者さんもいるので、血圧チェックはまめに行います。
細い静脈や途中に狭窄部位がある血管に返血したことで、血管痛を訴える患者さんもいます。
その場合は温めたり、湿布を貼ったりして対応することもあります。

⑦透析装置、回路の確認

患者さんの状態をこまめにチェックしながら、同時に透析装置にも異常が起きていないか確認します。場合によっては途中でダイアライザーを交換することもあります。

また透析中は抗凝固薬を使って巡回させている血液が固まらないように管理しているのですが、抗凝固薬が不充分だった場合など、回路の中で血液が固まってしまうこともあります。

その場合は早急に回路全体を交換することになります。
このように透析中に機器にどんなトラブルが起きても速やかに対応し、患者さんを守るのが臨床工学技士の大事な役割です。

⑧患者さんとのコミュニケーション

透析患者さんは一般的に週に3回通院し、1回の治療に4~5時間かかるため、医療スタッフは同じ患者さんと長く関わることになります。
生活や食事についての相談などは、主に透析看護師が対応することが多いのですが、透析治療自体についての質問などは、臨床工学技士が答える場合も少なくありません。

透析装置の操作を行う臨床工学技士がわかりやすく説明することで、患者さんはより安心して治療を受けられるようになります。
また患者さんの声を聞くことは、臨床工学技士の仕事の上でもプラスになります。

⑨午前中の患者さんの透析終了と午後の患者さんの準備

針を抜いて、午前中の患者さんの透析が終了になります。
透析終了後体調が悪化する患者さんもいるので、患者さんの状態は必ず確認します。

その後、午後の患者さんの透析治療の準備を行います。

⑩午後の患者さんの透析開始

午前中と同じ手順で、午後の患者さんの透析を開始します。

⑪午後の患者さんの透析終了後透析装置の点検

午後の患者さんの透析が終了したら、透析回路やダイアライザーなどの点検とメンテナンスを行います。
最後に、午前と午後の患者さんの透析結果、データなどをまとめ、医師に報告します。

医療機器や薬剤は日々進歩しているので、最新の知識を身に付けるために、研修会や勉強会などに参加することも多いです。透析室で働く臨床工学技士は、主に透析機器の操作、点検、メンテナンスを行っている医療機器のスペシャリストです。臨床工学技士は、チーム医療で行う透析治療の中で、重要な役割を担っています。

まとめ

  • 臨床工学技士は、医学と工学を学び、国家試験に合格した医療機器のスペシャリストです。
  • 透析治療を行う上での専門的な能力を認められた血液浄化専門臨床工学技士もいます。
  • 透析室で働く臨床工学技士の1日は、透析液の準備と、透析装置の点検や準備から始まります。
  • 透析を開始したら、患者さんの様子をこまめにしながら、透析装置や回路に異常が起きていないかチェックを続けます。
  • 透析中に装置や回路に何らかのトラブルが発生した時は、速やかに対応して患者さんを守ります。
  • 患者さんの話を聞き、質問に答えることで安心して治療を受けてもらうのも、臨床工学技士の役割です。
  • 透析終了後は、装置のメンテナンスを行います。
  • 海上自衛隊の護衛艦には「先任伍長」なる存在があるそうです。艦の隅々まであらゆることに知悉している存在です。ベテランの臨床工学士はいわば透析室の先任伍長的存在となります。