腎機能が低下していると心臓も悪くなりやすいと知ってはいるものの、心臓病の名前は複雑でわかりにくいですよね。
心臓病は命に関わることが多そうで怖いけれどどうしたらいいのかわからないという状態では、ますます不安も大きくなります。
慢性腎臓病の患者さんが発症しやすい心血管疾患の1つに、大動脈弁狭窄症という病気があります。
大動脈弁狭窄症とは、左心室から大動脈に血液を送り出す出口になる大動脈弁の開きが悪くなる病気です。
慢性腎臓病の患者さんはこの大動脈弁の石灰化が起きやすいため、大動脈弁狭窄症発症のリスクが高くなっています。
今回は、大動脈弁狭窄症についてご紹介します。

大動脈弁狭窄症とは

心臓には、右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋があり、心房と心室の間と心室の出口に左右で合計4個の弁があります。
それぞれの部屋が収縮する時は弁が開いて血液を流し、拡張して溜めこむ時は弁を閉じて血液の逆流を防ぎます。
この弁に故障が起きる病気を弁膜症といい、弁が十分に開かないために血液の流れが妨げられる状態が狭窄症です。
故障は4つの弁すべてに起こりますが、左心室の出口にある大動脈弁が開きにくくなる大動脈弁狭窄症が多数を占めます。
では大動脈弁の開きが悪くなると、どんなことが起きるのでしょうか。
大動脈弁は大動脈に血液を送り出す出口にあるため、開きが悪くなると、全身に送られる血液量が減少してしまいます。
この状態が続くと、心臓は血流不足を補おうと拍動数を増やすため、心筋に負担がかかります。
心臓と血管に無理がかかる状態が続けば、心機能が低下して、狭心症や心筋梗塞を起こしたり、危険な不整脈を起こし突然死のリスクも高まります。
大動脈弁狭窄症は、脈や心音に異常が現れるので、診察で発見されます。
その後、心エコーなどの検査を行い、確定診断となります。
心エコーでは、弁の状態や形状、血液の流れや圧を確認できるので、重症度もわかります。

大動脈弁狭窄症の原因

大動脈弁が開きにくくなる主な原因には、加齢により弁が硬くなることに加え、動脈硬化や高血圧の影響で心筋が肥厚し硬くなることなどがあります。
加えて慢性腎臓病の患者さんは、大動脈弁を硬くする要因を持っています。
それは、腎機能の低下によるミネラル代謝異常から起きる石灰化です。
腎機能の低下が進むと、ビタミンDが活性化ビタミンに変わることができなくなり、腸からのカルシウム吸収が妨げられ、血中カルシウム濃度が低下します。
また尿中にリンを排せつする働きも弱まるため、血液中のリンの濃度が高くなります。
この状態が続くと、カルシウムとリンの濃度を調整しようとして、副甲状腺ホルモンの分泌が高まり、骨に含まれているカルシウムを取り出して血液中のカルシウムを増やそうとします。
そして副甲状腺ホルモンの高値が続くと、血液中では高カルシウム・高リン状態が進行し、血液中で過剰になったカルシウムとリンが血管壁の石灰化を起こします。
石灰化は大動脈弁でも起きるので、慢性腎臓病の患者さんは弁がますます硬くなり、大動脈弁狭窄症を起こしやすいというわけなのです。

大動脈弁狭窄症の症状

大動脈弁狭窄症があっても、早期には自覚症状はほとんどありません。
狭窄が進行すると、体を動かした時に息切れや疲れやすさが起きるようになります。
運動などをした時には、胸が締め付けられるような痛みや、胸を押しつぶされるような痛みを感じます。
両足のむくみが現れることも多く、慢性腎臓病の患者さんは腎機能の低下によるむくみだと考えていたら、大動脈弁狭窄症が原因だったという場合もあります。
自覚症状が現れてからは心機能の低下のスピードが早くなりますので、早めに治療を始めることが重要です。

大動脈弁狭窄症の予防と治療について

①慢性腎臓病の患者さんが大動脈弁狭窄症を防ぐために

大動脈弁狭窄症をはじめほとんどの心臓病には動脈硬化が深く関わっています。
高血糖、高血圧を防ぐ生活改善に加え、禁煙も必要です。
慢性腎臓病の患者さんの場合、大動脈弁狭窄症は、弁の石灰化が進むことで重症化します。
食事療法にしっかり取り組み、リンを取り過ぎないようにしましょう。
リンの摂取制限が始まるのは、基本的に透析導入後になります。
リンは肉や魚などタンパク質食品に多く含まれるため、透析導入前の慢性腎臓病の患者さんの場合は、タンパク質摂取量を守っていれば、リンの過剰摂取を防ぐことができます。
また同じタンパク質量でもリンの含有量が少ない食品や多い食品があるので、管理栄養士に相談して毎日の献立を考えるようにしてください。
リンは調理過程ではあまり除去できないので、食品の選び方と量の調整が大切です。
また食事に気をつけていても、血中リン濃度が下がらない場合は、リン吸着薬の服用など医師の指示に従いましょう。

②大動脈弁狭窄症の治療

大動脈弁狭窄症は、早期の場合は経過観察になります。
しかし重症になると大変危険な病気なので、胸の痛みや息苦しさなどを感じた場合はすぐに医師の診察を受けてください。
胸の痛みや心不全の症状がある患者さんや、症状は特に出ていなくても弁口の面積が0.6㎠以下まで狭くなっている場合や左心室と大動脈の血圧の差が60mmHg以上ある場合、または重度の不整脈が起きる場合には手術で治療する必要があります。
手術は、大動脈弁置換術を行うのが一般的です。
全身麻酔後、胸を開いて硬くなった患者さんの大動脈弁と人工弁を置き換えます。
置き換える人工弁には、ブタやウシの弁を使った生体弁と人工の機械弁があり、基本的に高齢の患者さんには生体弁、それ以外の年齢層の患者さんには機械弁を使用します。
機械弁は耐久性に優れているのですが、この弁に置き換えた場合は血液が固まりにくくなる抗凝固薬を服用し続ける必要があります。
その他に患者さん自身の心臓の組織を利用して弁を作る弁形成術という手術方法もあります。
またこの手術の際は一時的に心臓を止める必要があるため、全身の血液循環を代用する人工心肺を使用します。
手術時間は患者さんの状態や大動脈弁の石灰化の程度によって変わりますが、およそ3~5時間程度になります。
術後は特に異常がなければ2週間ほどで退院することができます。
しかし体力の低下している方や、大動脈弁の石灰化の程度が著しい方、以前にも心臓の外科手術を経験している方で手術に耐えられないと判断された方は、カテーテルを使って大動脈弁を置き換える経カテーテル大動脈弁留置術で治療する場合もあります。

大動脈弁狭窄症は、突然死のリスクもある危険な病気です。
動脈硬化や高血圧に加え、慢性腎臓病の患者さんに特に起きやすい石灰化は、大動脈弁狭窄症につながりますので、定期的な検査で心臓の状態を詳しく調べておくことが重要です。

まとめ

  • 大動脈弁狭窄症は、左心室から大動脈に血液を送り出す大動脈弁の開きが悪くなる病気です。
  • 慢性腎臓病の患者さんは、大動脈弁の石灰化が起きやすいため、大動脈弁狭窄症発症のリスクが高くなっています。
  • 石灰化を防ぐためには、リンの摂取を抑える食事療法が重要です。
  • 大動脈弁狭窄症が進行した場合は、大動脈弁置換術や経カテーテル大動脈弁留置術などで治療します。